2010.05.06 *Thu
【小説】 「ネットの彼女」 第1話(P-2) / 桂木 けい
ヤツ(大山)のいる総務課へと入って行き軽くお辞儀をする。
もう時間も夕方の5時をとっくに回っており、同じ社の者が少しくらいウロウロしてても、もう誰もとがめたりはしない。ここの課長も、今は会議で居ない事は事前に確認をして来ているので別に何も問題は無いはずだ。
当社では先月の9月に配置替えがあり、この総務課も以前とは机の位置が変わっていたが、かの大山を探すのはそれほど難しい事ではない。あたりをグルっと見回して一番キタナイと云うか、整理が出来ていないのがヤツの机に決まっているからだ。
すたすたと歩いて行くと、PCモニターに隠れるような姿勢で何かをしているヤツを見つけた。身体が大きい(上にもなのだが、横にも大きい)割に動作の小さい男だ。
私が近づいて行っても一向に気が付かないようすだ、出来ればこの集中力を是非お仕事へと向けて貰いたいのだが、そんな事がありえる訳が無いのも承知している事だ。
「オイ、オレだ、来てやったぞ」
この言葉だけではこちらを向かない事も承知しているので、ヤツが両肘で体重の一部を支えている机を横から”ゴンッ”と軽く蹴ってやった。すると、さもめんどくさそうに、こちらを向いてメガネを直し、やっと私を見上げるしぐさをする。大山とはこんな男である。
「あぁ、リョウちゃんか・・・」
別に”リョウちゃん”呼ばわりをされるほどの付き合いはしていないハズなのだが、大学時代に何かのサークルで一緒になってから、何か困った事があるとワザワザそれを私のトコロにまで持ってくるので、何回かはその厄介事に巻き込まれてしまい、しぶしぶ力を貸した事が何度かあり。そして、それがクサレ縁となって今も続いていると云う訳だ。
「チョット頼み事があってきた」
「へぇ~、リョウちゃんが?珍しい事もあるもんだねぇ~」
このおっとりした話し方からして全然合わないのだが、今日は欲しいモノがあってソレをかなりの高確率でコイツが持っているハズなので、少しだけ我慢をする事にした。
「ほら、VHのディスク持ってるだろ?出せよ!」
普通に考えれば、会社にゲームのディスクなど持ってきてるハズは無いのだが、その法則はコイツには当てはまらない事も知っている。仮に「持ってるか?」などと聞いてしまうと、持ってても「持ってない」と言う可能性があるので、いかにも”持ってる事はもう分かっている”というスタンスで交渉に臨むのが、こうゆう場合の私のやり方だ。
「また、急に来て、イキナリそれか~?」
「そそ!ここ最近の貸しを取り立てに来てやったぞ!感謝しろよなw」
「まぁ、ある事はあるけど、これ保存用だからなぁ~・・・」
この大山は気に入ったモノは必ず2つ以上購入して、プレイ用と保存用に分けていると云う剛の者だ。やはりそのうちの1つを持ち歩いていたようで、これでもうVHは手に入ったようなモノだ。
別に買ってもいいのだが、イイ年をした大人が夜のゲームコーナーでパッケージを物色するのは、出来れば避けたい行為だったので私は少しホッとした気になっていた。
「これはぁ今、お店に行っても、なかなか並んでないんだよねぇ~」
それは更によかった、イイ年をした大人が夜のゲームコーナーでパッケージを物色して、目的のものが無くて、またゲーム店をハシゴする未来が消えた訳だ。
「オマエさんから恵んで貰う気は無いから、金は出すよ」
大山はこの時、バッグの中から取り出したディスクを少し見ていたが、とくにグズル事も無くそれを私に差し出した。
「いいよ別に、リョウちゃんならあげるよぉ、あと2枚あるしねぇ~ww」
くれると言うのなら貰っておこう、コイツにはもっと大きな貸しがあるので、別に胸も痛まない。私はそれを受け取ると素早くスーツのポケットへと仕舞い込んだ。
「説明書はちゃぁ~んと読めよぉ」
こんなやりとりをして、ヤツのとなりの空いてる席に営業部の私が座っていたので、課の女性社員が気をきかせてお茶を入れてくれた。制服をキレイに着こなしている感じのイイ方だったので、いつもなら飲まない茶を少しだけ頂いてから帰る事にした。
「そうそう、ならこれもぉ持っとかないと・・・」
この後更に紙袋を一つ手渡された。中にはVHをプレイするのに必要なコントローラーが入っているらしいのだが、勤務先にどのような理由が有り、こんなゲーム機器を持ち込んでいるのかは不明なのだが、相手がこいつなら別に違和感が無いというのも不思議な事だ。しかし、ここは素直にヤツに感謝しなければならないだろう、そのおかげで今からゲームコーナーを訪れる手間が省けたからだ。(特に声に出してまで有難うとは言わないが・・・)
「それが無いとVH出来無いからなぁ~」
まだ熱い液体をフーフーしながら飲んでいる間にも、大山は親切にVHの事を説明してくれていたので、もうだいたいの事は分かったつもりになっていた。飲み終えた茶碗を湯沸室へと持っていく途中で、先ほどの女性社員の方にも軽くお辞儀をしておいた。
この後、大山には「じゃな!分からない事があれば携帯で!」と言っては一方的に別れてきた。今日は仕事をする気分では無かったのでこのまま帰る事にしようか。私の足は自然と社外へと向かって廊下を歩き出した。
(P-3)へつづく(更新は来週の予定です)
※目次ページはコチラ!
もう時間も夕方の5時をとっくに回っており、同じ社の者が少しくらいウロウロしてても、もう誰もとがめたりはしない。ここの課長も、今は会議で居ない事は事前に確認をして来ているので別に何も問題は無いはずだ。
当社では先月の9月に配置替えがあり、この総務課も以前とは机の位置が変わっていたが、かの大山を探すのはそれほど難しい事ではない。あたりをグルっと見回して一番キタナイと云うか、整理が出来ていないのがヤツの机に決まっているからだ。
すたすたと歩いて行くと、PCモニターに隠れるような姿勢で何かをしているヤツを見つけた。身体が大きい(上にもなのだが、横にも大きい)割に動作の小さい男だ。
私が近づいて行っても一向に気が付かないようすだ、出来ればこの集中力を是非お仕事へと向けて貰いたいのだが、そんな事がありえる訳が無いのも承知している事だ。
「オイ、オレだ、来てやったぞ」
この言葉だけではこちらを向かない事も承知しているので、ヤツが両肘で体重の一部を支えている机を横から”ゴンッ”と軽く蹴ってやった。すると、さもめんどくさそうに、こちらを向いてメガネを直し、やっと私を見上げるしぐさをする。大山とはこんな男である。
「あぁ、リョウちゃんか・・・」
別に”リョウちゃん”呼ばわりをされるほどの付き合いはしていないハズなのだが、大学時代に何かのサークルで一緒になってから、何か困った事があるとワザワザそれを私のトコロにまで持ってくるので、何回かはその厄介事に巻き込まれてしまい、しぶしぶ力を貸した事が何度かあり。そして、それがクサレ縁となって今も続いていると云う訳だ。
「チョット頼み事があってきた」
「へぇ~、リョウちゃんが?珍しい事もあるもんだねぇ~」
このおっとりした話し方からして全然合わないのだが、今日は欲しいモノがあってソレをかなりの高確率でコイツが持っているハズなので、少しだけ我慢をする事にした。
「ほら、VHのディスク持ってるだろ?出せよ!」
普通に考えれば、会社にゲームのディスクなど持ってきてるハズは無いのだが、その法則はコイツには当てはまらない事も知っている。仮に「持ってるか?」などと聞いてしまうと、持ってても「持ってない」と言う可能性があるので、いかにも”持ってる事はもう分かっている”というスタンスで交渉に臨むのが、こうゆう場合の私のやり方だ。
「また、急に来て、イキナリそれか~?」
「そそ!ここ最近の貸しを取り立てに来てやったぞ!感謝しろよなw」
「まぁ、ある事はあるけど、これ保存用だからなぁ~・・・」
この大山は気に入ったモノは必ず2つ以上購入して、プレイ用と保存用に分けていると云う剛の者だ。やはりそのうちの1つを持ち歩いていたようで、これでもうVHは手に入ったようなモノだ。
別に買ってもいいのだが、イイ年をした大人が夜のゲームコーナーでパッケージを物色するのは、出来れば避けたい行為だったので私は少しホッとした気になっていた。
「これはぁ今、お店に行っても、なかなか並んでないんだよねぇ~」
それは更によかった、イイ年をした大人が夜のゲームコーナーでパッケージを物色して、目的のものが無くて、またゲーム店をハシゴする未来が消えた訳だ。
「オマエさんから恵んで貰う気は無いから、金は出すよ」
大山はこの時、バッグの中から取り出したディスクを少し見ていたが、とくにグズル事も無くそれを私に差し出した。
「いいよ別に、リョウちゃんならあげるよぉ、あと2枚あるしねぇ~ww」
くれると言うのなら貰っておこう、コイツにはもっと大きな貸しがあるので、別に胸も痛まない。私はそれを受け取ると素早くスーツのポケットへと仕舞い込んだ。
「説明書はちゃぁ~んと読めよぉ」
こんなやりとりをして、ヤツのとなりの空いてる席に営業部の私が座っていたので、課の女性社員が気をきかせてお茶を入れてくれた。制服をキレイに着こなしている感じのイイ方だったので、いつもなら飲まない茶を少しだけ頂いてから帰る事にした。
「そうそう、ならこれもぉ持っとかないと・・・」
この後更に紙袋を一つ手渡された。中にはVHをプレイするのに必要なコントローラーが入っているらしいのだが、勤務先にどのような理由が有り、こんなゲーム機器を持ち込んでいるのかは不明なのだが、相手がこいつなら別に違和感が無いというのも不思議な事だ。しかし、ここは素直にヤツに感謝しなければならないだろう、そのおかげで今からゲームコーナーを訪れる手間が省けたからだ。(特に声に出してまで有難うとは言わないが・・・)
「それが無いとVH出来無いからなぁ~」
まだ熱い液体をフーフーしながら飲んでいる間にも、大山は親切にVHの事を説明してくれていたので、もうだいたいの事は分かったつもりになっていた。飲み終えた茶碗を湯沸室へと持っていく途中で、先ほどの女性社員の方にも軽くお辞儀をしておいた。
この後、大山には「じゃな!分からない事があれば携帯で!」と言っては一方的に別れてきた。今日は仕事をする気分では無かったのでこのまま帰る事にしようか。私の足は自然と社外へと向かって廊下を歩き出した。
(P-3)へつづく(更新は来週の予定です)
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COMMENT
いいキャラだ・・・大山s
おはようさんです\(-o-)/
楽しみがまた一つ増えたので、ありがとうございます!
よく考えたら、これってかなりの長編ですよね?
身体に気をつけてがんばってくださいね!
次回作も楽しみにまってます~w
PS 大山さんみたいな人・・いるいるw
楽しみがまた一つ増えたので、ありがとうございます!
よく考えたら、これってかなりの長編ですよね?
身体に気をつけてがんばってくださいね!
次回作も楽しみにまってます~w
PS 大山さんみたいな人・・いるいるw
2010/05/06(木) 08:07:54 | URL | Ayuigo #- [Edit]
keiさんも更新速いじゃないですにゃ~w
Σ( ̄○ ̄;)
やっぱり描写がイメージを掻き立てますね~( ̄▽ ̄)
(イラストイメージできたらアタシのブログに載せてもいいですかにゃ?)
リョウ先輩の思考描写を見てて思ったのですが…keiさんは3点リーダー〔…〕を使わないんですねぇ~?
(アタシ行間とかに沢山使うから…お気になさらずにゃ(>_<))
Σ( ̄○ ̄;)
やっぱり描写がイメージを掻き立てますね~( ̄▽ ̄)
(イラストイメージできたらアタシのブログに載せてもいいですかにゃ?)
リョウ先輩の思考描写を見てて思ったのですが…keiさんは3点リーダー〔…〕を使わないんですねぇ~?
(アタシ行間とかに沢山使うから…お気になさらずにゃ(>_<))
2010/05/06(木) 09:41:45 | URL | Yuffie #- [Edit]
Ayuigoさんへ
早速の感想を有難うございます!。
まだまだ書きたい事が多くありますので、
少し長い作品になるかも知れません。
大体のプロットとラストが4種類の候補がある以外は、
まだまだ決めていない事もありますので、
書いてる途中に登場人物たちがどのように動いていくかは、
著者の私にも分かりません><;。
ですが、読んで頂ける方が居る以上は続けて参りますので、
これからもヨロシクにゃ!。
まだまだ書きたい事が多くありますので、
少し長い作品になるかも知れません。
大体のプロットとラストが4種類の候補がある以外は、
まだまだ決めていない事もありますので、
書いてる途中に登場人物たちがどのように動いていくかは、
著者の私にも分かりません><;。
ですが、読んで頂ける方が居る以上は続けて参りますので、
これからもヨロシクにゃ!。
2010/05/06(木) 09:59:40 | URL | kei #YG9ONXHE [Edit]
Yuffieさんへ
またまた感想を有難うございます!。
イラストイメージにつきましては、
描いて頂ける方が居るかどうかなのですが、
たくさんの方が描いてくれると嬉しいにゃ!。
(最悪は自分で描く事になるかも~><;)
リョウ先輩の思考描写は何故かトテモ書きやすいですね。
3点リーダーは時々使いますが、今の彼はまだ心が硬いので、
もう少しして仲間で増えたら、使う事が多くなると思います。
にゃふにゃふ!
イラストイメージにつきましては、
描いて頂ける方が居るかどうかなのですが、
たくさんの方が描いてくれると嬉しいにゃ!。
(最悪は自分で描く事になるかも~><;)
リョウ先輩の思考描写は何故かトテモ書きやすいですね。
3点リーダーは時々使いますが、今の彼はまだ心が硬いので、
もう少しして仲間で増えたら、使う事が多くなると思います。
にゃふにゃふ!
2010/05/06(木) 10:08:52 | URL | kei #YG9ONXHE [Edit]
p( ̄^ ̄)q=3立ち読みにきましたぞっww
彼は、いよいよ序曲(の序曲ぐらいかな?w)に入っていっちゃう訳ですねー♪
わー*(o^冖^o)*ワクワクしてきましたよ~♪
あ、でもラストはまだ決めてないんですよね?
う~む…彼を幸せにするかどうかはkeiさんの腕にかかってるのか~…ιι
人*´∀`*)益々楽しみになってきたなぁ~♪
無理のない程度に進めて下さいね♪♪
彼は、いよいよ序曲(の序曲ぐらいかな?w)に入っていっちゃう訳ですねー♪
わー*(o^冖^o)*ワクワクしてきましたよ~♪
あ、でもラストはまだ決めてないんですよね?
う~む…彼を幸せにするかどうかはkeiさんの腕にかかってるのか~…ιι
人*´∀`*)益々楽しみになってきたなぁ~♪
無理のない程度に進めて下さいね♪♪
2010/05/06(木) 15:37:47 | URL | suzu #99DFA69w [Edit]
うぅむ・・・・
keiさん、いい感じっすね!
おもしろいっすよ!!!
俺もがんばって書いてみようかなw(あ!今笑ったやろ!(`з´)⊃)
おもしろいっすよ!!!
俺もがんばって書いてみようかなw(あ!今笑ったやろ!(`з´)⊃)
2010/05/06(木) 16:59:58 | URL | MASATAKE #JXoSs/ZU [Edit]
suzuしゃんへ
毎度ご来店誠に有難う御座いますにゃ!。
次のP3ではリョウちゃんの子供の頃が描かれますが、
すこ~し話が重くなります><。
そしてP4では・・・、
いよいよゲームがスタートします!。
それではまた来週~~!!。
次のP3ではリョウちゃんの子供の頃が描かれますが、
すこ~し話が重くなります><。
そしてP4では・・・、
いよいよゲームがスタートします!。
それではまた来週~~!!。
2010/05/06(木) 18:25:55 | URL | kei #YG9ONXHE [Edit]
MASATAKEさんへ
好意的な感想をありがとうです。
MASATAKEさんも頑張って、
私よりも面白いものを創ってくださいにゃ!。
アナタなら出きるはずにゃ!。
いつか、それを読む未来を待ってるにゃ!。
でわでわ!。
MASATAKEさんも頑張って、
私よりも面白いものを創ってくださいにゃ!。
アナタなら出きるはずにゃ!。
いつか、それを読む未来を待ってるにゃ!。
でわでわ!。
2010/05/06(木) 18:37:24 | URL | kei #YG9ONXHE [Edit]
こんにちわwとーーーってもーーー、おもしろいですwまた設定が実際にありそうでいいですねw私のフレには仮想世界で結婚をされてる人もいますよw
私自身も実際にメルトモになった方もいますwこの先の展開がすごい気になりますw無理をなされずに早く更新してくださいねwでわでわ^^
私自身も実際にメルトモになった方もいますwこの先の展開がすごい気になりますw無理をなされずに早く更新してくださいねwでわでわ^^
2010/05/07(金) 17:05:34 | URL | akane #- [Edit]
akaneさんへ
いつもコメントを有難うございます。
小説は週1ペースで更新しますので、
また見て下さいね!。
小説は週1ペースで更新しますので、
また見て下さいね!。
2010/05/07(金) 20:57:26 | URL | kei #- [Edit]
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